クルトネフ作品序論 (2005.08)

相沢康夫

今回は、クルト・ネフ氏のおもちゃについて、特に、そのデザイン的特徴をテーマに書いてみたいと思います。ネフ氏の作品と言うと、「ネフスピール」がつとに有名ですが、もちろんそれだけではなく、彼は様々な対象年齢のありとあらゆるおもちゃを作っています。と言いながらも、まずは「ネフスピール」の話から・・・。

「ネフスピール」は、1957年に生まれました。5cmの立方体をリボン型にカットしたこの作品を、半世紀ほど前アート作品としてではなく、子ども向きのおもちゃ(=積み木)として位置付けた所が、ネフ氏の先見性ですね。立方体や直方体を基本にしたいわゆる普通の積み木は、ドイツの教育学者フリードリヒ・フレーベルによって考案されたと言われています。これにあきたらず(?)変化を加える試みは、「ネフスピール」以前には、ドイツの建築美術学校バウハウスで生まれた「バウスピール」がありました。(ちなみに「バウスピール」は、現在ではネフ社がそのレプリカを製品化しています。)以前、ネフ氏に「ネフスピールを作った時、バウスピールの事は意識したか?」という質問をした事があります。答は「NO」。バウハウスの事も、なんとフレーベルの事さえ、あまり知らなかったとのこと。「不勉強でね・・・。」と笑っていました。

特徴その1 ネフ氏は“おもちゃ”を作っている

さて、20歳代後半の若きネフ氏が、この作品を作った時、何を想っていたかと言いますと、私はズバリ“子ども”だったにちがいないと思うのです。おもちゃ作家なんだから子どもを想うのは当然だろうと言われそうですね。でも、ネフ社の契約デザイナーは対象年齢を限定していない人が多いような気がするのです。必ずしも子ども向けという事にこだわらず、むしろ自らのデザインの追及みたいな部分に、力点が置かれていると思うのです。クラーセン氏などは、自らの幾何学理論を極めたいという想いに動かされているようです。ところが、ネフ社創設者クルト・ネフ氏は、あくまで“子ども”を対象にした“おもちゃ”を作っているのです。ネフスピール以後の作品を見ても、それは明らかです。

ネフ氏は、いつも子どもの側に立ち、子どもが喜ぶ事、手に取って愉しいものを考えながら、創作を続けているにちがいありません。人は大人になると、意外に子どもの頃の事を忘れてしまうものです。ネフ氏の創作は、絵本や童話の作家のそれに似て、自らの少年性と向き合う事でなされているのかもしれません。お会いするたび、いたずらっ子のようなまなざしで、ジョークを連発するネフさん。全然いばらないネフさん。彼の印象を何かにたとえるなら“無垢で希望に燃える少年”というのが一番近いと思うのです。

特徴その2 シンプルである

余分なものが無いともいえます。形や色もシンプルですが、機能も単純なものが多いんですね。例えば落とすだけのモノ、入れるだけのモノといった具合ですね。シンプルであるという事は、同時に気品があるという事でもあって、「ベビーボール」「リングリィリング」など、有無を言わせない品格があります。この手のガラガラを、後に他社がどんなに真似て作ってもかないません。シンプルと言うと、作り手も簡単に作ってしまうように思われがちですが、これはむしろ逆であるケースが多いと思います。アイデアを練って練って練り上げた末のシンプルさなのです。このため、デザインの完成には長い年月がかかる事が多いようです。ちなみに私は、ネフ氏が6年以上温め続けているアイデアのいくつかを見せていただいた事があります。

特徴その3 意外に小品が多い

大作が少ない訳です。価格的に見ても、「ネフスピール」が一番高価な作品で、「スカレッタ」や新作「ムルティム」が続きます。大作が少ないというのは、作者の力量を物語る訳ではなく、目指す方向性ゆえであろうと思います。クラーセン氏のように幾何学を持ち出す事もなく、ふと思いついた面白い事を形にするのが好きなのかもしれません。「クリップクラップ」や「ビナリオ」で遊んでいると、どこからか「どう? これ面白いでしょ?」というネフさんの声が聞こえてくるんですね。あ、ちなみにこの2作、どちらもネフ社製品ではりません。(前者は独・ジーナ社、後者は伊・レシオ社製です)「ネフ社創設者なのに、どうしてネフ社で製品化しないの?」という質問に、「ネフ社で作ると高くなっちゃうからね。」と答えていたネフさん。笑えました。

最後に、この「ビナリオ」について、ちょっと書きましょう。「ビナリオ」は回転運動によって棒を次から次へとはじき出すという、ちょっと変わったおもちゃです。正直なところ、私は最初に見た時、「何、コレ?」と思いました。「これのどこが面白いの?」とも・・・。でも、ハンドルをグルグル回していると、なにかふつふつと愉しさがこみ上げてくるのですね。ネフさん恐るべし、です。私はこの作品に一番感じるのは、“自らの中の子どもと向き合ったモノづくり”なのです。来年80歳になるというネフさんですが、まだまだたくさんのおもちゃを世に出してくれるでしょう。

ネフさん、本当にありがとうございます。

(「コプタ通信」2005年9月号、相沢康夫)

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