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今回ご紹介するのは「プリデイン物語」の作者の新刊。プリデインはケルト神話を下敷きにした、地味だけどロングセラーを続けているファンタジーです。

そして今度の作品はというとウェストマークという架空の王国を舞台にした物語ですが、今のところファンタジックな要素はありません。愛娘を亡くし心身を病んだ王に代わって国を治める、邪悪な宰相のせいで大事な親方を殺され自分も逃亡生活を続けるテオという印刷工見習いの少年が主人公。彼が珍妙なイカサマ師や若き革命家フロリアン一味などと知り合う冒険物語といった感じです。素朴な親方から受け継いだ、正義を愛し不正を憎む単純な倫理観で生きてきたテオが、王政そのものに疑問を持つ革命家や嘘で出来ているようなのに憎めないイカサマ師との出会いで悩みながら成長していきます。そこに腹話術と手話が巧みな浮浪児の娘ミックルとの恋、彼女のなくした記憶の秘密、宰相の王国乗っ取りの陰謀が絡みあい・・・。

物語馴れした身には少々展開が見えてしまうところもありますが、期待を裏切らない満足いく結末でなかなか楽しめる作品です。人の命の尊さを重く見て敵とはいえど傷つけることにためらいを覚えるテオの姿や、それぞれの価値観で行動する登場人物たちには考えさせられるところがあります。高学年から中学生くらいの読み物好きの読者におすすめ。同時刊行で２，３巻が出ていてテオのさらなる活躍が期待されます。

（コプタ通信2009年3月号より　つきちゃんこと築山真希子）