'08年に出版された本で印象に残ったものその9

|

『青春の終わった日 ひとつの自伝』清水眞砂子/著
 人は生まれ付いた性格というようなものを持っているのだろうか? それとも後天的な育ちや人との出会いが考え方を決定して行くのだろうか?
 私にとって清水眞砂子という人は、「私を絵本や児童文学の世界に引きずり込んだ人」というだけではない。清水眞砂子という人のものの見方、どこか茶目っ気のある人柄に何度か助けられ、時には襟を正され、今日まで生きてこられたという思いがある。つまり子どもの本に対してだけではない、生き方や政治的な判断までも...いろんな面で時には心地よい、時には痛い位の刺激を与えてくれる人なのである。そんな方の自伝を読めるなんて、もう途方もない幸せ! そしてやはり、読み進むうちに私はうなり、微笑み、最後には力を貰った。
 今の北朝鮮から引き揚げて来るところ、これは壮絶だ。日本に帰り、掛川の家に貧しい農家として暮らしていた時のこと。勤勉で協力しあうい誇りを持っている。でも、片方ではそこから抜け出したかった思い。私も自分の貧しかった子ども時代を思い出してみた。だが、11歳年上の清水には到底及ばない。兄弟の多いのは羨ましい限りだ。
 病気で高校にしっかり行けなかった話のところはなかなかつらい。大学時代の高杉先生の話は楽しい。
 さて、そういう事柄を清水は絶えず分析しようとする。だが、その「分析」は、いわゆる学者のように考えに考えた末、調べに調べた末、言っているのではない。ちょっとしたひらめきをむしろ楽しんでいるかのようでもある。そういうところを批判する人もいるだろう。かと思うと真面目な所は極端な位真面目で、結局それが面白いのだ。的を射ていると思う。文学としての格調の高さも感じる。
 私は清水眞砂子の講演も随分聞いたが、最初の連れ合いと別れた理由はこの本で初めて知った。「喧嘩だってしたい。」なんていい話だ! たいてい、清水眞砂子の著作物を読んだ後、私はいつも「自分のことは自分で考えよう」と思う。今回もそうだった。だが、いつもと違う事と言えば、私に関係する人達が全て宝物に思えて来た事だ。嬉しい本である。
本体価格1800円。

この記事が含まれる商品カテゴリ・特集

アーカイブ