18 わらべ唄との出会い

樋口さんの保育の話は、全体としては遊びの環境の話なのですが、具体的にはおもちゃの話、絵本の話、そして、わらべ唄の話が多い。でも、そう言うと、物的環境のことばかりでは、と思われがちです。でも、意外なことに、と言いますか、誤解を避けるために言いますと、それらを通しての人的環境、つまり、保育者と子どもとの関係の話が多く出てきます。さらに、遊びの話が中心かと思うと生活の話も大変多い。「保育創造セミナー」の人気の理由は、そうした人間関係のことや、生活のことを映像を見せながら解りやすく話してくれる所なのです。

さて、百町森は「保育創造セミナー」からいくつかカルチャーショックを受けた話を前回しましたが、中でも露木大子さんのするわらべ唄から大変多くを学びました。保育者対象の講習会だけでなく、百町森に来るお母さんたち向けの「わらべ唄の会」も頻繁に開きました。当初私は『まめっちょ』に出てくるような歌を歌うのが楽しみでした。そして子どもが三歳・四歳になった頃は『わらべうたであそぼう』に出てくる遊びを、子育ての中で役立てました。

その後露木さんは、阿部ヤヱさんがわらべ唄の本を出すお手伝いをする為に、阿部さんの住む遠野に下宿し、そこに伝わるわらべ唄を徹底的に学びます。そして、それを静岡の保育園や百町森の「わらべ唄の会」などで実践していく中で、露木さんは、大人と子どもが一対一でする〈人間の信頼関係から始まるわらべ唄〉というようなところに行きついたのだと思います。その事を知った時、私は胸の中の何かがストンと落ちたような、不思議な幸福感に満たされました。単なる道具ではない、人の生き方まで示してくれるようなわらべ唄に、私もこの時初めて出会ったのです。(文章にすれば2〜3行のことですが、露木さんはこの事に行きつくまでに、本当に産みの苦しみを味わっていたのです。)

私たち家族は95年に阿部ヤヱさんを尋ねました。ちょうどその時、露木さんがお手伝いをしてこれから出そうとしている本の出版を、地元の新聞社に頼もうとされていました。しかし、それでは阿部さんのわらべ唄が一地方のものになってしまうと思い、僭越ながら、是非、東京の出版社から出すようにとおすすめしました。それが、『人を育てる唄』他続編であります。これらは、本当に子育ての文化として世界遺産に匹敵する価値がある本だと私は思います。

(コプタ通信2005年10月号より)

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