午前零時のサンドリヨン


  • 午前零時のサンドリヨン/相沢沙呼
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相沢康夫が相沢沙呼さんを推薦し応援します

本書推薦文に入る前に、日本の推理小説(ミステリー)の歴史とジャンルに関する話をする必要があると感じています。やや饒舌になるかもしれません。興味のない方、又は、このジャンルにすでに詳しい方は、とばして※マークから読んでくださってかまいません。

まず、本書は2009年度鮎川哲也賞の受賞作品であり、本格ミステリー小説です。「本格」と書くと、いわゆる本格的なミステリーなのだと誤解されやすいかもしれません。本格という言い方は、あくまでも推理小説の一ジャンルの呼称にすぎません。本格ミステリーが他のものに比べてワンランク上であるとか、高尚である訳ではないので念のため…。では、どんな小説を本格ミステリーと呼ぶか?と言いますと、多々論議が交わされてはいますが「物語前半に提示された謎が、後半で論理的に解明される」小説であると、私は考えています。典型的な形としては、犯人のしかけたトリックを、名探偵が鮮やかに解き明かす…といったモノでしょうか。アガサ・クリスティーやエラリィ・クイーンなどの作品が、これにあたります。

さて、ここで日本の推理小説の歴史に少し触れます。実は、日本において、この本格ミステリーが風前の灯だった時代があるのです。今から半世紀ほど前、天才、松本清張が大活躍していた時代です。「社会派推理小説」というジャンルが確立されたこの時期、いわば犯人あてパズルのような本格ミステリーを、出版社や読者は時代遅れと考えたわけです。本格ミステリーの“冬の時代”です。長く厳しい冬でした。この冬が終わりを告げるには、ゴッド・オブ・ミステリー島田荘司のデビューを待たなければなりませんでした。彼の孤軍奮闘と、吸引力によって、今、本格ミステリーは広大な裾野を持つジャンルとして生き続け、かつ進化を遂げています。「新本格」とか「21世紀本格」といった、さらなる区分けがされたりもしています。中でも、最近流行の本格ミステリーは“日常の謎”モノと呼ばれるジャンルです。殺人事件とかではない、日常にあるちょっとした不思議を主人公(探偵役)が、論理的に解決するといった物語です。このジャンルをいち早く確立させたのが、昨年直木賞を受賞した北村薫だと言っていいでしょう。
さて、横溝正史以降、島田荘司以前のあの“冬の時代”に、本格の灯を絶やしてはならじと、かたくなに本格ミステリーを書き続けた数少ない作家たちがいます。その代表が、一人が高木彬光であり、もう一人が件の鮎川哲也だったと、私は思います。相沢沙呼さんの本を推薦するための前段は、この鮎川哲也の名前にようやくたどり着いたところで終了です。相沢沙呼さん以外の敬称は略してしまいました。あしからず…。


『午前零時のサンドリヨン』は、(おそらく若い女性と思われる)相沢沙呼さんのデビュー作です。本格ミステリーの登竜門の一つ、鮎川哲也賞の受賞作品でもあります。本格と言っても、いわゆる“日常の謎”モノと呼ばれる、殺人が起こったりしない推理小説です。ミステリーというより学園ラブコメと言った方がいいかも…です。
舞台は某高等学校。語り手(ワトソン役)は、草食系男子と覚しきポッチー。謎とき手(ホームズ役)は、ちょっと不思議な女子高生、酉乃初さん(愛称おニュー)です。マジシャンでもある彼女のキャラが私は好きですね。今時の女子高生としてのリアリティーを感じます。天才のようでいて、フツーの女の子。リアリティーを言うなら、登場人物の会話全てがいいんですね。特に私は織田さんにも惚れました。
さて、日常の謎と書きましたが、例えば第1話では、こんな謎が提示されます。図書室の書架の1スペースの本が、一冊を除き、全て逆向き、つまり背表紙の本のタイトルが読めない状態になっています。なぜこんなことが?誰かのいたずらにしても何の意味が?…もちろん、論理的な解答が酉乃さんによって導き出されます。
全4話から成る短編連作なのですが、最終話に至って、ちょいとビターテイストの長編だった事に、読者は気づかされるでしょう。このあたりが、新人の作とは思えないほど、ウマいんですね。 このミステリーで、何より素晴らしい点は、語り手ポッチーの活躍だと、私は思います。普通、語り手は(ワトソンもヘイスティングも)読者を、間違った推理に誘導したり、名探偵の推理の鮮やかさを強調するための存在だったりするのですが、ポッチーは最後の最後にやってくれます。拍手ゥ〜!まぁもちろん、推理ではない部分で…なのですが。

巻頭の「受賞の言葉」で、作者はこう書いています。「これまでたくさんの挫折がありました。そのたび、私に立ち上がる力を与えてくれたのは、心優しい数々の魔法です。それはちょっとした励ましの電話や、夜中に着信した電子メールだったりしました。(中略)そんな魔法のような優しい気持ちを、一人でも多くの方々に、今度はわたしから伝えられれば、と思っています。(後略)」まさしく…。私は、この本を読んで、へこんだ気持ちが少しふくらんだ気がしました。ホント。

私が最も敬愛する島田荘司氏は、「言ってみれば、赤いリボンのかかったケーキの小箱のように愛らしい作品」であると、評しています。ちょっと元気が不足している方に、是非お薦めしたい本です。

蛇足ながら…作中の謎は、全て解かれますが、マジックのネタは明かされません。マジックは、不思議をそのまま楽しむものなんですね。 (相沢康夫)

商品詳細

著者: 相沢沙呼
寸法: 19.5×13.5cm
内容: 332p
製作: 東京創元社
初版: 2009年10月

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