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ムーミンのふたつの顔

ムーミン研究の第一人者が贈るムーミン論

著者の冨原さんは、「ムーミン谷への旅」(1994年)で、ムーミン誕生のエピソード、9冊の物語の解説、コミックスやアニメなどムーミンのいろいろな顔を紹介しました。また、1995年の「ムーミン谷へようこそ」では、短くも濃いキャラクター紹介をした後、ムーミンの面白さをキャラクターを軸に語りました。さらに、2004年の「ムーミンを読む」では、「九冊のムーミン物語をひとつの完結した作品世界として読みとく試みである」とのあとがきの通り、一冊ずつの紹介でありながらも、興味深い考察が繰り広げられます。実際、ムーミンをここまで深く読み込み、語ることのできる人は、他にはいないんじゃないかと思えます。このように、ムーミンに関する考察を深めてきた冨原さんの「ムーミンのふたつの顔」は、ムーミンを主軸にしながらも、これまでになくヤンソンを語る本になっています。

1954年9月、ロンドンの夕刊紙「イヴニング・ニューズ」で、ムーミンコミックスの連載が始まるところから、この本は始まります。当時ほとんど無名だったヤンソンは、それまでやったことのない日刊新聞のコミックス連載を引き受けます。連載を成功させたいイヴニング・ニューズは、一週間前から小さな広告で読者の興味をあおります。直前には、ヤンソンの特集記事が組まれ、ムーミンの広告板を屋根につけた新聞配達車が、市内を走り回る…。この出だしのところだけでも、十分にわくわくするエピソードです。もちろん、この新聞連載は大成功し、ヨーロッパにおいては、ムーミンといえばまずコミックスがイメージされるようになりました。

さらに、日本における児童文学、テレビアニメ主導の受容について、また、コミックスにおける弟ラルスとの共作についても、リアリティをもって語られ、「なるほど!」と納得することしきりです。

さらに、コミックスの終了と、ムーミンシリーズの「夏」から「冬」への移行、さらにムーミン後の作品に至るヤンソンの心のありようを、作品の中から丁寧にくみ取っていく後半は圧巻です。ヤンソンの伝記ではないのに、読み終えると、ヤンソンの生涯を垣間見たような深い味わいが残ります。そしてまた、「ムーミン」のどれかに手を伸ばしたくなる…。そんな本です。

(前略)つまり、「ムーミン」は、日本とヨーロッパではそれぞれ独自の「顔」をみせていたのだ。のみならず作者のヤンソンにもまあた、子どもの作家とおとなの作家としての「ふたつの顔」があった。

本書では、まずヨーロッパにおけるムーミン受容の現象を、ヤンソン自身の伝記的背景と絡めて論じ、さらに日本での受容の特殊な状況にも言及したい。つぎにコミックスとしてのムーミンを読みとく。やがてコミックスとともにムーミンの「夏」(シリーズ前半)が終わり、「冬」(シリーズ後半)の時代が始まる。これもまた「ふたつの顔」だ。天変地異にもめげず元気に冒険をくりひろげる「夏の顔」と、自然的な厄災に心理的な葛藤がかさねられて、ときとして深刻な孤独や不安にたちむかう「冬の顔」である。最後に、内容から見ても時系列からみても、児童文学の継続であり断絶でもあるポストムーミン作品を論じたい。(後略)

「はじめに」より
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著者:
冨原眞弓
発行:
筑摩書房
寸法:
B6判
頁数:
206p
初版:
2005年
  • ムーミンのふたつの顔/冨原眞弓
  • 1,500円+税(8%税込1,620円)
  • 買物かごへ

ムーミンのふたつの顔:本の中身
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英語版「たのしいムーミン一家」にそえられたムーミンママ直筆の手紙

ムーミンのふたつの顔:本の中身
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「ムーミンパパ海へ行く」のためのヤンソンのスケッチ

ムーミンのふたつの顔:本の中身
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コミックス第1話「ひとりぼっちのムーミン」の一部(上)と、ヤンソンのスケッチ

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