中学生棋士から始まったキュボロ騒動に思うこと

|

中学生のプロ棋士藤井聡太さんのお陰で、アナログおもちゃ、特にキュボロや将棋がにわかに注目されています。デビューから29連勝して新記録を打ち立てた藤井さんですが、子どもの頃に夢中だったおもちゃということでお母さんが紹介したのがキュボロという「玉の道積み木」だったことがテレビで伝えられたからです。

キュボロは確かに素晴らしいおもちゃなんですが…

それ以来、百町森にもキュボロを買い求めてにくるお客さんが増えました。キュボロが大好きな私として、こういう地味ながら完成度の高いおもちゃに注目が来ることは嬉しいのですが、でも、今は在庫もなくなり、予約を受けている状態、次に入るのは来年になりそうです。この騒動より前から買う計画を立てていた人には申し訳なく思っています。

もともと、月に1、2個しか売れなかったキュボロが、毎月10個、20個と予約がくるって、これは加熱し過ぎです。苦しい経営が続くお店としては嬉しい事態ではありますが、反面、歯がゆさを感じざるをえないというのが正直な話です(大企業なんかだと、こういう状況を利用して上手にあおったりして売り上げ増やすのだろうけど、格好つけるわけじゃないけど、そんな商売をしたら罰が当たるような気がしてどこかブレーキがかかります)。

歯がゆさの理由は3つ

その1:そもそも、木製玩具の業界は、一回の生産ロットが200とか300の世界ですし、スイスのキュボロ社は日本だけのために生産している会社ではありません。日本に来る数は知れています。

その2:他にもいいアナログのおもちゃがいっぱいあるので、キュボロだけに集中しないで、もっとアナログのおもちゃのこと全般を学んでいただきたい。

その3:1、2歳の子のために買いに来る人がかなり大勢いるという事実。おもちゃはその子の発達に応じて、あるいは好みに応じて与えていかないと、楽しさを感じたり、夢中になって遊んだりできないでしょう。その予算を、年齢や発達や趣向にあったおもちゃにあてれば、その子も周りの大人もハッピーなはずです。段階を踏んで、5歳とか小学生になってから、キュボロのことは考えて欲しいです。

「知育玩具」と呼ばないで! だって、知能だけを育てるわけじゃないですから

こんなにキュボロを欲しがる人が増えている理由は、たぶん、我が子も藤井さんのように頭が良くなってほしいという思いからなのだと私は推測します。日本では百町森で売っているようなアナログのおもちゃは「知育玩具」と呼ばれることが多いのですが、そう呼ばれるようになった理由も「こうしたおもちゃで遊ぶと頭がよくなる」と考えた人がいたからでしょう。そのことと、今回のキュボロ騒動は同じ根っこだなぁと私は思っています。日本人は戦後からずっと学歴とか頭のいい人とかにコンプレックスを持って来ていて、そんな中で「知育玩具」という言葉が生まれ、競争社会がそれに拍車をかけて今に続いていると私は推測しています。せめて西洋で一般的な「教育玩具」と呼んでくれたらなあと思います。(余談かも知れませんが、「わが子は○○歳なのにこんなことができる」と自慢げに、計算や文字を覚えさせることばかりさせたがる親が時々いらっしゃいます。当の子どもは他のおもちゃで遊びたがっていても、「そんな幼稚なもの!」という感じで、とりあってもらえません。こういうIQに取り憑かれているといった人の勘違いにどう対応したらいいか、いつも悩みます。)

マスコミで報道される藤井さんを見て、この人は中学生にしては落ち着いている人だなと私は感じます。「子どものころから負けるとすごく悔しがった。」とお母さんは言っていましたが、それを克服するために大変な努力する人、意欲や忍耐力が人並み以上に育っているなんだろうなと思いました。

私が百町森で売っているようなアナログのおもちゃを「知育玩具」と呼ばずにせめて「教育玩具」と呼んでほしい(ただ「おもちゃ」と呼ばれるのが一番嬉しいのですが)理由の一つも、頭の良さだけでなく、落ち着きや努力する力を育てるからということがあります。

ジェームズ・ヘックマンの言葉が嬉しい!

最近、ノーベル賞経済学者ジェームズ・ヘックマン教授が、IQを高くする知能などの認知能力より、「意欲」「自信」「根気強さ」「注意深さ」などの非認知能力が大事だと言って、話題になりました。ヘックマンの著書や最近の教育論を読むと、IQよりもむしろこの非認知能力が結果的に学力テストにも影響し、社会で活躍できる人をつくるとも言っています。つまり、幼児期には非認知能力を高めるような教育に投資することが、社会性もある大人に育ち、経済的にも効率がいいということです。

日頃から子どもは遊ぶことが大切、「絵本やおもちゃでゆっくり子育てしましょう」と言っている私にとって、なんと有り難いお言葉でしょう。要はIQだけを高めようとしてはいけないということです。藤井さんの本当の素晴らしさは知能だけでなく、意欲や注意深さ、努力する力も育っているからではないでしょうか。でも、それなら、ごっこ遊びもいいし、キュボロ以外の構成遊びもいい、ボードゲームやカードゲームも素晴らしいってことではないですか。そもそも将棋もアナログゲームですねぇ。(ちなみに、将棋も最近、藤井効果でよく売れますが、こちらも、早すぎないことを願っています。)

おもちゃを選ぶ時は、年齢も考慮に入れて!

藤井さんの影響で百町森にみえたお客さんの場合、1〜2歳の子にキュボロを買ってあげようとする方が意外に多く、それは最近の私の心配の種です。キュボロはその年齢では明らかに難し過ぎます。ビー玉は口に入る大きさですから危ないということもあります。難し過ぎて積み木嫌いな子が増えなければいいんだけど、と思います。

親が遊びたいから買うというならその気持ちはわかります。さらに、せめて3・4歳ならパーツを減らして遊ぶくらいはできます。でも、基本はやはり年齢に即した遊びを提供して、ゆっくり土台を築き、5歳とか小学生になってから構成遊びが好きな子だったら、いろいろある構成玩具の中で、キュボロも一つの候補として考える…というのが、親として、大人として、正しいスタンスではないでしょうか。

この記事が含まれる商品カテゴリ・特集

アーカイブ