「とんぼが里に降りてきた。もう秋だねえ。」とH氏が言った。とんぼは秋が始まると、山の方からだんだんに里の方に姿を見せるようになるのだよと、続けて言った。 わたしが遠野に滞在していたときも、8月末頃からだったか、下宿先のベランダの柵の上に、毎日とんぼが遊びに来た。いつも、きまってポツポツポツと、行儀よく、三匹、同じような間隔をあけてとまっているのだった。 とんぼの目玉も大きくぐりんぐりんと回っていた。 そんなとんぼたちも、秋が深まると、つぎつぎと庭の上に姿を落として消えていってしまうのだった。 とんぼが人差し指をたてているとすっとその先に止まることを知ったのも、遠野の秋祭りでのことだった。阿部ヤエさんが子どもの頃は、次のような唄をうたってとんぼをつかまえたという。 あけず(秋津)、あけず、宿けっから(宿をあげるから)止まぁれ、止まれ
露木大子 (伝承/阿部ヤエ)
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