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百町森について記事
「同朋」1993年7月号(発行:東本願寺)
もう十年以上前の記事です。当時の百町森の様子がよくわかる写真と、柿田の考えがよくまとまったインタビューで構成されています。

「同朋(どうぼう)」は、東本願寺が発行している月刊誌で「親鸞に出会う本」というサブタイトルが付いています。

子どもに必要な”陰の空間”を!

子どもには、「“陰の空間”が必要だ」というのが柿田友広(40) さんの考えだ。JR静岡駅から歩いて10分足らずのところに「百町森ギャラリー・おもちゃ村」がある。おもちゃのギャラリーだが、お母さん向けの多様なコーナーもある。子どもを取り巻くあらゆる文化的環境を30坪のお店で実現する新しいユニークなスペースだ。

子どもが部屋の中で大声を上げたり、騒いだり、ふざけるのは、遊んでいるのではなく、精神的に不安定なときで、親はそれを「元気がある」と錯覚している。非常事態宣言なのだ。すぐにディズニーランドに走らず、元気の裏側を考えてやる。小さい“陰”で一人で遊ぶことがとても大切だと柿田さんはいう。

「おもちゃ村」 柿田も相沢も若い!

子どもにこびない“おもちゃ”を!

甘やかすことと甘えさすことは大きな違い

-----子どもを取り巻く環境について、柿田さんにうかがいたいのですが。

「それはもう、非常事態なんです」

-----と、言われるのを具体的に教えてください。

「日本の子どもはよく騒ぎますね」

-----ええ。電車の中でも、そりゃあ騒々しい。運動場や野原ならいざしらず、ちょっと静かにしろ、と注意したくなります。先生や親がいても知らん顔ですね。しつけ、マナーの問題という以前に、何かあるとおもいますね。

「そこですよ、大事なところは。子どもが部屋の中で大声を上げるのは、非常事態宣言なんです。それを受け止めず、元気があると思って見て見ぬふりをしますと子どもはますます孤独感をつのらせていきます。私たち大人は、子どもたちが何かに熱中することのできる“陰の空間”を与えてやることが大切なんです。狭くてほの暗い、落ちついた空間です」

-----ところで「百町森書店」「百町森ギャラリー・おもちゃ村」というお店の名前ですが、「百町森」というのは何か意味があるのですか。

「グリム童話の中にでてくる“100エーカーの森”のことです。それを訳者の人が“百町森”と訳しておられるんです。そこからとりました。以前、ドイツのグリム兄弟が童話を書いた足跡をかなり丹念にたどったことがあります。そのとき気がついたのが、随所にある深くて暗い大きな森の存在でした。この森こそ、子どもたちにとって掛け替えのない想像の、そして不気味で孤独でとてもこわくて優しい宇宙なんです。そこから無限の感動的な物語が生まれたのだということが分かりました」

-----今の日本はというと、暗い森はなくなり、明るくて管理されたスベリ台とブランコの公園しかない。絶叫したくなりますよねえ。

「子どもに本を読んで聞かせることも大切なんです。今、お母さんあるいはお父さんが、自分の方を向いていてくれるのだというのが分かる。うれしい。甘えたいのです。甘やかすのではありません。甘やかすことと甘えさすことはまったく違うんです。甘えられなかった子どもは自立できません。小学四、五年ぐらいまでは読んで聞かせる。読む親も楽しい。耳から入った言葉を自分の頭の中で映像化する、創造するという内面的な遊び、そして私といっしょに遊んでくれているという満足感は、何ものにも替えがたいほど貴重な出会いなのです。テレビやファミコンでは得がたい絆となるのです。私にも五歳と一歳半の子どもがいます。毎日四時間から五時間は読んで聞かせます。でも、そこで何冊か読んだかとか、感想文を書かせたりしてはダメです。あくまでも遊びです。親も楽しむんです。だから学校の読書指導なんかには大反対ですよ。」

ベストセラーではなくロングセラーの本を

-----子どもからお年寄りまで読んで感動するおもしろさがあるのが子どもの本であって、たかが子どもの本じゃあないということですね。柿田さんが気に入っている本を教えてください。

「新しいものもたくさんありますが、私が学生時代(大学生)に読んで感動し、子どもの本の専門店をやるきっかけになった本をあげてみましょう。

まず『ふたりはともだち』(アーノルド・ローベル作、三木卓訳)。それから同じ作者で訳者も同じ『ふくろうくん』。それからこれもいいですよ、『ゲド戦記氈E影との戦い』(ル・グウイン作、清水真砂子訳)。

子どもの本だからという偏見を崩してくれたのはローベルでした。ああそう、『もりのなか』(マリー・ホール・エッツ作、まさきるりこ訳)なんかもいいですね。」

-----ベストセラーの本ですか。

「いえ、どれもロングセラーの本です。うちで扱っているのはベストセラーの本ではありません。ベストセラーの本というのはいわゆる新刊書であって、その中で特に出版社が力を入れて宣伝し、売ろうとする本なんです。でもそれが必ずしもいい本だとは限りません。でもロングセラーの本は必ずいい本です。そういう本を読ませてあげたい。

特に大事なのは乳幼児から三歳ぐらいまで。父親は仕事で忙しい。母親はテレビを見てほったらかし。現代日本社会の欠陥が子育てに集中しているのです。危機だと思いますよ。」

-----そこで本だけでなく、子どもを取り巻くあらゆる環境を考えて、「百町森ギャラリー・おもちゃ村」をつくられた。五年前ですね。照明をおさえ、音楽を流さず、静かで落ちついたギャラリーで、子どもは手作りのおもちゃに夢中。お母さんは自然食品を買ったり、子育ての相談も。

「相談する相手がいなくて孤独なんですね。核家族ですし、教えてくれる人もいない。特に子どもが切実に求めている本物の重さのある、創造性を伸ばすおもしろいおもちゃ、心を豊かにする道具。そして、ふざけたり、情緒不安定で大声を出すときの心の裏側にある欲求。それらを満たす“陰の空間”を提供することでお役にたちたいのです」

-----お店にこられる奥さんたちは、こんなスペースが欲しかったとよろこんでおられる。本来、お寺が担うべきことをしていらっしゃる(笑)。

お話をうかがっていると、今問題になっている中学生のいろんな理解しがたい行動の背景には、乳児期の子育てあり方に多くの問題があるのではと思えてきますね。

ところで、このお店はもうかっているのですか。

「それが、借金もありますし、やっぱり赤字です。でもデパートのおもちゃ売り場で売っているような、すぐ壊れたり、電池がなくなったら動かなくなるようなものは置きません。そういうおもちゃは、最初は子どもの関心を引きますが、すぐにあきられます。見た目はなんてことないが、手にとって遊んでいるうちにのめり込んでしまうような本物のおもちゃを提供したいんです。この姿勢はくずしません。そういう意味では子どもにこびた商売をする気もありません。

書店の横にあるガレージを利用して月に一回、人形劇もしています。車庫ですからほの暗いところです。遊園地やテーマパークのシアターとは比べものにならないほどの、身近な“陰の空間”ですよ」

柿田さんが提供しようとしている、ほの暗い“陰の空間”にあたたかい光が少しずつ少しずつ差し込んできているように思えた。

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